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私たちの今

私たちの今

3月11日の震災で当店は津波を被り、在庫、データのほとんどを失いました。
これが震災から2日目の朝、我が家の2階から撮った光景です。
残されたのはヘドロと大量の魚(冷凍加工場のもの)、それに瓦礫や押しつぶされた車の山でした。

この中には大量の魚が 家の中だけでも千匹くらいいたかもしれません。

お金も全部こんなになっていました。

当店は幸い建物を流されなかったため、すぐに室内からの泥出し作業に勤しむ日々が始まったわけですが、ご覧のとおり、
一足入れるのも大変なほどの荒らされようでした。
すべてのライフラインが寸断されている中での作業は、寒さも手伝って中々はかどらず、約1か月を要しました。
この辺のヘドロはそれは異臭が漂うひどいもので、昔の加工工場の置き土産とでも言いましょうか。排水の垂れ流しが沈んで層になったもののようです。そこに冷凍の魚の山が重なり、日に日に腐っていくのです。
…海も臭かったんだな、だから吐き出したかったのかな、などとぼんやり思いながら、ひたすらスコップを動かし、暗くなったらさっさとご飯を食べ、すみやかに布団に入る、そんな毎日でした。
それでも1週間もすると三々五々お手伝いが増えてきて、スタッフはもちろん息子の友達が何人も来てくれ本当に助かりました。
昼食は我が家で炊き出しをし、みんなで頂くのですが、このひと時は本当に楽しい時間でした。とても避難食とは思えないようなメニューでしょう?冷蔵庫の中ってたくさん入っているものですね。

電気がない分、お鍋でご飯を炊く技も完璧にマスターしましたよ。
ちなみに真ん中で笑っている子は家をすっかり流されてしまった子で、その隣でおどけているのがすっぴんのスタッフ大島、彼女も避難所から通ってきてくれていました。
その子は『やることがない』と息子の部屋に泊まり込んで手伝ってくれ、家族が増えたようで、これもまたごはんの作り甲斐もあって嬉しかったな…

布団の中で、いつになったらお風呂に入れるかな…、当分無理だろうけど、それでもいつかな…、などとふわふわの湯気を思い浮かべながら眠りにつくのです。何度も何度も余震に起こされ、それでも明るくなるまで眠るのです。

人間、こんなに何も考えずエネルギーも使わず暮らせるもんなんだな…、とも思いました。
お風呂だって何も毎日入る必要なんてないし、電気なんて時々楽しむために消すのもいいし、お水はずいぶん無駄に使っていたんだな…、って

慣れない肉体労働で体の節という節が軋み、痛くない日はありませんでしたし、指の第一関節は腫れていて、手をぎゅっと握ることができませんでした。
長靴の中で足を踏ん張るものだから、気づかないうちに両足の爪が剥がれていました。
とにかく早く泥を掻き出さなければ、という思いだけだったように思います。
どうやって毎日を過ごしたのか、なんだかこれくらいしか思い浮かばびません。

ひとつだけとっても不思議なことがありました。
それは、朝起きた時だけ涙がでる、ということでした。

朝起きてカーテンを開けると外は瓦礫の山、時には白い雪のベールをまとってはいるものの惨憺たる有様です。
これがなぜだか、朝だけ辛いのです。
どうして夜、布団の中では悲しくないんだろう…、と自分でも不思議でしたが、ある日気が付きました。
なぜ朝だけ悲しくなるのか、それは、朝の神々しいお日様が瓦礫の風景にあまりに不釣り合いだからだったのです。
それがわかってからは安心して泣きました。ひと泣きしてから1日を始めていました。
どこか、途方に暮れていたのでしょうね。きっと泣くことで自然とバランスが保てていたのでしょう。
それでも3か月が過ぎたころから、それは外科手術の時のように加速度を増して日に日によくなっていきました。
物さえ片付いてしまえば、お店の中は震災前とあまり変わらないと言えるところまで回復したのです。

ネットショップより一足先に再開した実店舗には、お客様が毎日汚れた着物をお持ちになります。
ひどいものもありますが、桐などの上質の箪笥に入っていた物は濡れてはいても、状態のいいものが本当に多いです。
基本的には、当店で塩水と泥を落とすための水洗いをした後よく乾燥させて京都に送るのですが、からからに乾かしてあげると着物が喜んでいるのがわかります。ひどい汚れと思っていたものが泥を落としてみると意外にきれいだったりでとっても嬉しかったです。
そしてここからが本題です!
そういうお客様たちが、いかにがっかりしているかというと実はそうでもないのです。たとえ泥だらけでも、自分が避難所にいてさえ、せめて着物が見つかってよかった、助かってよかった!と喜んでいらっしゃるのです。
中には、『袖も通さないで泥だらけにしちゃってバカみたい!これからはどんどん着て歩くっちゃ!』とか、『あんたんとこで被災した着物売らないの?売るときは教えてね?。拾えなかった分買わないと!せめて一通りくらい持っていたいっちゃ。あはは…』とか
みんな人知れず泣いているはずです。ものすごく傷つき、途方に暮れ、絶望もしていることでしょう。
でもこれは、けっしてやせ我慢とは言いたくないです。

これをプラス思考と呼ばずしてなんと呼びましょう!
悲惨な話も山ほどですが、感動的なお話もたくさんあって、私はつくづく巡り合せていただいているんだな…と、感じています。
ただこれはあくまで私が大規模半壊という恵まれた状況にあるから言えることかもしれません。
もし私が家族も家も仕事も車も無くなった、という時でもこんなふうに受け止められるかは正直わかりません…
ただ言えることは、『すべての事実を受け入れる』というところから始まるということでしょうか…

さてさて、お店の方は再開してすぐから津波で汚れた着物が持ち込まれるようになり、なんにも売る商品がなくなったお店にもお客様が出入りして下さるようになりました。

ネットショップはネット環境が整うまでに2ヶ月以上かかりましたが、たまりにたまったメールには再開を待っているという応援メールがたくさん入っていて、有り難すぎて涙無くしては読めないものばかりでした。
私達はこの震災を通して、いかにお客様があってこその私達なのだということを思い知らされたことでしょう。
途方に暮れていた私に再開を迫ってくださったのもお客様、再開したことを事のほか喜んでくださったのもお客様、励ましてくださったのもお客様…
感謝の言葉は何度言っても言い尽くせないほどです。

本当に、本当にありがとうございました。
震災に出会ったおかげで知った本当の意味での『有難い』が私達の財産になりました。

震災から3ヶ月ほどたった頃『無一物中無尽蔵』という言葉を教えていただきました。
何もないという無一物の境地に立つときに、すべてがつながるり無限の世界にたどり着くことができるという言葉だそうです。

これは何もないようでも、本当に必要なものは仏様が無尽蔵に与えてくださる、ということでもあると、この言葉を教えて下さった禅僧が言われました。
本当に必要なものは必ず与えられる…
なんと頼もしい言葉でしょう。
余計なことは考えず、憂えず、今まで以上に『毎日着物が着たくなる』を目指して、スタッフ一丸となって向かっていきます。

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